モデル

コンクリートの壁と大理石の床でできた、シンプルで、でもモダンなこの会社のエントランス。
天井の高いこの場所は、行きかう人の足音や会話を程よく反響して今日も活気にあふれてる。

 

 

そんな中、何度も響くシャッター音。
眩しいフラッシュ。

 

思わず目を閉じて俯きたくなるのを、なんとか堪えてぎこちなく笑顔を作る。

 

 

早く終わらないかな。
写真撮られるの苦手なんだけど……。

 

 

そんな私の気持ちなんてお構いなしにシャッターを切り続ける目の前の男の人が、ようやく満足してカメラを下ろした時には、私はもうぐったりと疲れ切っていた。

 

 

 

「ありがとうございます。いい写真撮れました」

 

 

大きなカメラを手にそう言って頭を下げたのは、広報部の沼田さん。

 

眼鏡をかけた真面目そうな彼は、今撮ったばかりの写真を、カメラの液晶画面で確認しながら嬉しそうに笑う。

 

「来月の社内報楽しみにしててくださいね」

 

「あ、はい……」

 

 

楽しみにするもなにも、できれば写真なんて載せて欲しくないのに。

 

社内報の女子社員を紹介するページに私の写真を載せたいと言う広報部からの依頼。
本当は断りたかったけど、これも仕事のうちだと上司命令が下りてきた。

 

それで広報部の沼田さんが、仕事中の私の様子を撮りに、大きなカメラを持ってやってきたのだ。

 

 

 

正直、写真撮られるのも目立つのも、苦手なのになぁ。

 

 

 

往生際悪く心の中でそんな事を思っていると、

 

 

「の、野村さん!」

 

まるで意を決したように、カメラを首から下げた沼田さんはごくりと息をのみ込むと、上擦った大きな声で私の名前を呼んだ。

 

「も、もしよかったら今日仕事の後、ご飯でも……」

 

 

広々としたエントランスに響いた彼の声。
通り過ぎる社員が、驚いたように私たちのいる受付の方を振り返った。

 

「すいません沼田さん。仕事中ですし、受付でそういうお話は……」

 

 

私の職場は会社の受付。
広いエントランスを見渡せる場所に作られた受付カウンターには、社外の人もたくさん来るのに、この場所でそんな大声で食事に誘われても……。

 

 

「じゃ、じゃあ後で電話します!
携帯の番号教えてくれますか?」

 

やんわりと断った私に、彼は身を乗り出して話を続けようとする。

 

 

 

困ったなぁ。
こんな話をしているのが、万が一総務部長の耳にでも入ったら、あとでたっぷり怒られるのに。

 

 

「誘っていただけるのは嬉しいんですけど……」

 

 

どうやって断ろうと思案しながらなんとなく俯くと、沼田さんの手が視界に入った。

 

きつく握りしめた掌。
それが小さく震えているように見えて。

 

 

 

 

 

それを見た途端、思わず言葉に詰まった。