キツイ女

 

その時

 

 

「ごめんねー!今日詩織は用事あるんだ」

 

 

突然背後から聞こえてきた明るい声に、驚いて振り向くと、そこには営業部の亜紀さんがにっこり笑って立っていた。

 

突然現れた亜紀さんに、沼田さんは少し目を丸くした後、メガネを指で押し上げながら確認するように私を見る。

 

 

「野村さん、そうなんですか?」

 

「ごめんなさい、そうなんです。
今日はちょっと用事が……」

 

 

諦めきれないように私の顔を覗き込む彼に向かって丁寧に頭を下げると、沼田さんは少し不満そうな顔をしながらも

 

 

「わかりました」

 

 

そう静かに言った。

 

 

 

小さく会釈をして去って行く沼田さんの後姿を、亜紀さんは苦笑いをしながら眺める。

 

そして受付のカウンターの中に座る私に向かって大きくため息をついて見せた。

 

「ありがとうございます亜紀さん」

 

受付カウンターに肘をつき、私を見下ろす亜紀さんにそう言って頭を下げると、彼女はさらにもう一度大きなため息をついてみせた。

 

「詩織も誘われて困るくらいなら、はっきり迷惑だって断ればいいのに」

 

 

さっきまでの私の優柔不断な態度に呆れてるんだろう、私の顔を見ながら理解できないという風に首を傾げる。

 

 

「……そうなんですけどね」

 

 

そう、迷惑ならきちんと自分で断ればいいのに。
こうやって曖昧な返事しか出来ない自分が悪いってわかってはいるんだけど。

 

 

小さな頃から変わらない優柔不断さに、我ながらうんざりする。
亜紀さんみたいに、思ったことをはっきり言えたらどんなにいいだろう。

 

 

 

そんな事を思っていると

 

「詩織ちゃんはお前と違って優しいんだよ」

 

どこかから、からかうような声が聞こえた。
「おー、永瀬お疲れ!
私と違ってって、どういう意味よ?」

 

顔を上げると、亜紀さんと同じく営業の永瀬さんが入口からこっちへ歩いてくる所だった。

 

「みんながみんな、お前みたいにハッキリ物を言える性格じゃないって言ってんだよ。
ねぇ、詩織ちゃん?」

 

 

長身の体をかがめて、私の顔を覗き込む永瀬さん。
男らしく精悍な顔立ちの彼に微笑まれて、私はなんて答えていいのかわからずに曖昧に首を傾げた。

 

 

「えー、私そんなにハッキリ言う?
そんな風に言われたら、私がすごいキツイ女みたいじゃない」

 

永瀬さんの言葉に、亜紀さんは不満そうに肩をいからせた。

 

「いやお前充分キツイだろ!
そんな気の強い性格じゃなかったら、女のお前がこんなバリバリ営業なんてできるわけないじゃん」

 

 

苦笑いしながら、永瀬さんは亜紀さんの肩を持っていた厚みのある書類袋で軽く叩く。