浮気の基準

 

「大丈夫!
帰りは永瀬と違って優しーいダーリンに迎えにきてもらうから!」

 

ふん、と鼻をならしながら亜紀さんは受け取ったお札を乱暴にポケットにつっこんだ。

 

「あっそ。俺は優しくなくて悪かったな。
じゃあね、詩織ちゃん」

 

さわやかな笑顔でそう言って店を出ていく永瀬さんに会釈をして、その後姿を見送る。

 

 

 

「大変ですね、永瀬さん。
これから取引先の方に会うなんて」

 

「違う違う。ただ向こうの部長さんとキャバクラ行くだけだよ」

 

 

キャバクラ……。

 

予想外の言葉に、思わずぽかんと口が開いた。

 

 

「ほら、あいつ外見だけはいいからさ、あいつ連れておねーちゃんのいる店に行くと盛り上がるんだって。
だから向こうの部長さんとかに可愛がられて、よく一緒に飲みに誘われるんだよ」

 

男ってバカだよねー、と亜紀さんは豪快に笑いながら、ジョッキの中のビールを飲み干した。

 

「あ、そういえば。
亜紀さんって彼氏いたんですね」

 

 

美人で性格もいい亜紀さんだから、彼氏がいて当然なんだけど。
今までぜんぜんそんな気配がなかったから知らなかった。

 

 

「ん?あー、いるよ。あんまり周りに言ってなかったけど」

 

「どんな人なんですか?」

 

 

そのへんの男の人よりも、よっぽど男前な亜紀さんがどんな人と付き合ってるのかちょっと気になる。
興味本位で尋ねると、亜紀さんは彼の顔を思い浮かべたのか、少し照れくさそうに笑いながら言った。

 

 

「そうだねー、モテる男かな」

 

「え?モテる男?」

 

てっきり、優しい人だとか、面白い人だとかいう答えを予想していたのに。
亜紀さんの言葉に驚いて、私はバカみたいに繰り返した。

 

「そう。惚気みたいに聞こえるかもしれないけど、モテるんだよね。
そこが好きなんだ」

 

 

くすり、と笑いながらそう言った亜紀さんの横顔は、いつも会社でみせる表情とは違う、ちゃんと『オンナノヒト』の顔で、私はちょっとドキドキした。

 

 

「へぇ……。
でも、モテる男の人と付き合ってたら、不安になりませんか?」

 

「んー?浮気とか?」

 

 

亜紀さんの言葉に、無言でうなずく。
モテる人はそれだけ魅力的なんだろうけど、その分心配も多そう。
そう思ってしまうのは、私が自信がなくてネガティブだからなのかな。

 

 

「まぁ、浮気って人それぞれ基準が違うんだろうけど。
私、ある程度はバレなきゃいいかなってタイプだから」

 

「ある程度って……?」

 

「最後までやったらアウトかな」

 

ストレートな言葉でそう言って笑った亜紀さんに、驚いて瞬きをした。