悪い女

 

「ほら、男だからさ、キャバクラのおねーちゃんとアドレス交換してメールしてたとか。
酔った勢いでキスしちゃったとか。
その程度の事なら、完全に隠してくれれば別にいいかなって。
中途半端に知ってヤキモチやくの面倒だからイヤなんだよね。
さすがにエッチしたってなったら怒るけど」

 

 

お互いもう、いい大人だしね。

 

そう言って亜紀さんは笑った。

 

 

そんな、考え方もあるんだ……。
もし私なら、付き合ってる彼が他の女の子と内緒でメールをしてるのも、ましてキスなんて、絶対イヤなのに。

 

まぁ、彼氏もいない私がそんな事考えても仕方ないんだけど。

 

 

 

「私の事なんでどうでもいいの!
それより詩織の方が気になるんだけど」

 

「気になるって、なんですか?」

 

 

近くを通った店員さんにビールのおかわりを頼みながら、亜紀さんは私に向かって身を乗り出した。

 

「詩織ってあんなにモテるのに、ぜんぜん男の気配ないよね。
男嫌いなの?」

 

ストレートにそう聞かれ、思わず言葉につまって、目を反らした。

 

 

「何言ってるんですか亜紀さん。
私モテないですよ、ぜんぜん……」

 

「嘘つけ。
今日だって広報部のメガネくんに言い寄られてたじゃん。
あの人もけっこうしつこいよね」

 

「沼田さんですか?
入社試験で一緒になってからよく声かけてくれるんですけど、言い寄られてなんてないですよ。
ただ食事にさそってくれてるだけです」

 

「そうやってとぼけちゃって。
あっちは本気で詩織に惚れてるの、分かっててはぐらかしてんでしょ?
悪い女ー」

 

 

 

冗談半分の口調でそう言われ、思わず視線が下を向く。

 

 

『分かっててはぐらかしてる』
確かに、そうなのかもしれない……。

 

 

 

勝手に大きなため息が出た。
「あ、ごめん!詩織落ち込んだ?
私酒入ると言い方がキツクなるんだよね」

 

 

俯いた私を見て、亜紀さんが慌てた声を出す。

 

 

「違うんです。
本当に私、イヤなやつだなぁと思って。
ダメなんですよねそういうの」

 

 

テーブルの上のグラスを両手でつかみながら、そう言って笑った。

 

 

「そういうのって?」

 

「男の人に誘われたり、断ったりするのが苦手で」

 

「男嫌いって事?」

 

「そうじゃなくて、なんて言えばいいんだろう……。
特別好かれるのも、嫌われるのも、怖いんです」

 

 

こんな話をして、亜紀さんにも嫌われたらどうしよう、と思いつつ
彼女ならちゃんと聞いてくれるんじゃないかと、どこかで期待しながら口を開いた。