本気で人を好きになる

「私、昔から自分でイヤになるくらい、すごく優柔不断で。
自分の意志がないっていうか、自分に自信がないっていうか」

 

 

亜紀さんはもう4何杯目のジョッキを、一杯目と変わらぬスピードで傾けながら頷いた。

 

 

「だからこんな自分に好意を持ってくれる人がいても、戸惑っちゃうんです。
もしこの人と付き合ったとしても、こんな中身のない自分を知られたらすぐ幻滅されて嫌われちゃうんだろうな、とか思って」

 

 

「へぇ……」

 

 

「そのくせ、はっきり拒絶して嫌われちゃうのも怖いんです。
好かれたくないのに嫌われたくもない。
ワガママですよね」

 

 

 

うつむいたままでそう言った私に、亜紀さんは

 

「そっかぁ……」

 

と、静かに呟いた。
「詩織ってさぁ、男を好きになった事ないんでしょ?」

 

 

4杯目のジョッキを空にして、口についた黄金色の液体を手で拭いながら、亜紀さんはそう言った。

 

 

「え……?」

 

驚いて顔を上げると

 

「だって、本気で人を好きになったらそんな暢気な事言ってられないもん。
どうにかして相手を自分の物にしようって必死になってたら、そんなつまんない迷いなんてぶっ飛ぶよ」

 

 

私の悩みなんてなんでもない事だというように、亜紀さんは白い歯を見せて太陽みたいに笑った。

 

 

「そう、なんですかね」

 

「そうそう」

 

「本気で人を好きになるかぁ……」

 

 

今まで何度か男の人から告白されたりはしたけど
きちんと付き合ったこともないし、自分から好きになった事もなかった。
「……それにしても。
会社の男どもの憧れの受付嬢の詩織が、そんな暗い事考えてるなんて知らなかったー」

 

 

「ちょっと亜紀さん、暗いって!
ひどいです。私は真剣に悩んでるのに」

 

 

「だって、暗いよ、暗い!
せっかくそんな可愛い容姿に恵まれて、受付嬢なんてやってんだから。
もっと明るく楽観的に生きればいいのに!
もし私があんたの立場だったら、取引先のエリートに片っ端から手を出すのに」

 

 

「可愛くなんてないです!
だって。この会社で受付の仕事できてるのだって、親の紹介で入社してたまたま……」

 

 

「何ぐだぐだ言ってんの!
不細工だったら受付嬢なんてなれないでしょ!
そういう時は笑顔でありがとうって言っとけばいいのにー」

 

 

 

亜紀さんはビールをぐいぐい飲みながら大声で私に説教をする。

 

でもその遠慮の無い言葉が、なんだかうれしかった。