男の匂いにドキリ

その人は、テーブルにつっぷして眠る亜紀さんの姿をみつけると、軽く眉をひそめ、小さく舌打ちをする。

 

 

「寝てんのかよ」

 

 

低い声でそう呟くと、めんどくさそうにため息をついた。

 

 

普段、男の人の舌打ちなんて大嫌いだけど

 

その人がすると、眉によせたシワも、舌打ちをした唇も、やけに色っぽくて。
見ているだけでドキドキした。

 

 

この人、石井さんだ……!!

 

 

永瀬さんと女子人気の1、2を争う社内で評判のイケメン!
なんで、企画部の石井さんがここに……?

 

ぽかんとしたまま彼を見上げていると

 

 

 

「ほら、亜紀起きろ。迎えに来たぞ」

 

 

 

幸せそうに眠る亜紀さんに向かってそう言った。
え?
迎えに来たって事は、
石井さんが亜紀さんの彼氏なの……!?

 

知らなかった!
亜紀さん、石井さんと付き合ってたんだ。

 

 

 

それでも起きる気配の無い亜紀さんに、石井さんはうんざりしたようにもう一度舌打ちをして、テーブルにつっぷした亜紀さんの体を乱暴に抱きおこす。

 

亜紀さんは女性にしては背の高い方なのに、軽々と彼女の体を抱き上げる、逞しい腕。
その姿を見て、隣のテーブルのOLさんが小さく黄色い歓声を上げた。

 

 

確かに、ふたりとも美男美女で、こうやって石井さんが亜紀さんを抱き上げる姿は、まるでドラマの中のワンシーンみたいに様になってる。

 

 

 

思わずぽーっと見惚れていると

 

「悪い、亜紀の荷物もってくれるか?」

 

ぼんやりしていた私に、少し苛立ったような低い声。
「あ、はい!」

 

慌てて自分の荷物をまとめ、亜紀さんのバッグを持って椅子から立ち上がる。

 

そんな私を待たずに、石井さんは酔っぱらって熟睡してしまった亜紀さんを腕に抱えて、さっさと店を後にする。

 

 

ちょっと、歩くの、早ッ……!
背が高くて、足が長いから?

 

 

急いで彼を追いかけて店を出ると、店の前の歩道にタイヤの大きな黒い車が停まっていた。

 

 

「悪い、手ふさがってるからポケットから鍵だしてくんない?」

 

「は、はい……!」

 

 

彼の低く威圧的な声に、少しびくびくしながら、急いで彼のポケットにそっと手を差し込む。
体を近づけた瞬間、煙草の匂いに混じって微かに感じた男の人の匂いに、思わずどきっとした。